線虫検査って意味あるの?

2年ほど前から尿を検体として線虫を利用し、癌の検診が出来るといういわゆる線虫検査が流行りだしました。

通常、癌検診というと、肺癌なら胸部CT、乳癌ならマンモグラフィ、子宮癌なら擦過細胞診、前立腺癌ならPSA採血などなど、個別にそこそこ侵襲あり、料金も時間もかかる検査が多く、また一度に全身を画像検査するPET癌検診は非常に高額(10万円以上)となります。

線虫検査は尿を提出するだけだし、2万円前後、そして多くの癌が見付かるという触れ込みで、非常に流行りました。

確かにこの線虫検査が有用であれば、安くて楽だし誰でも受けたくなるかもしれません。

しかし、我々医師、特に癌に関わる医師は懐疑的に見ていました。

「線虫検査は感度87%で癌患者を見付ける」「既存の検査では見付からないステージ0の癌患者を見付ける」などと宣伝されています。

さてこの文言を見て「すごい!80%以上も見付けるのか!」「他の検査で見えないものまでわかるのか!」と感動してしまうのでしょう。

残念ながら癌や統計を理解している職種からは「微妙だな」と申し上げるしかありません。

まず、感度87%ですが、統計では特異度という数字と併せて評価します。宣伝によると特異度は91%と確かに高値です。では、論破始めます。

癌患者が2%の集団1万人にこの検査を受けてもらいます。癌患者は200人、健常者は9800人となります。感度とは病気の方が検査陽性となる確率ですから、癌患者のうち陽性となるのは174人、残りは陰性で26人となります。特異度とは病気では無い方が陰性となる確率ですから、健常者のうち陰性となるのは8918人、陽性882人となります。

よって、陽性と出るのは実は174人と882人で合わせて1056人もいます。つまり陽性と出て癌である確率は16%ほどで、癌ではない確率が84%もあります。

さらに恐ろしいのは、陰性は8944人ですが、そのうち癌患者は26人、約0.3%含まれます。2%の癌の確率を安心したくて受けてまだ0.3%確率が残っているのです。

線虫検査を受けて約1割の確率で陽性と出て、心配してあらゆる検査を受けても実は16%しか正しくは無いのです。84%の方はどんなに他の検査を受けても「既存の検査ではわからないステージ0かもしれない」という不安は払拭出来ないのです。そして約9割の確率で陰性と出て「癌は無い」と安心していても1000人に3人は癌を見落としているのです。

統計を正しく理解すれば、感度だけで判断してはいけないとわかるかと思います。

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