PSMA-PETについて

先日、西郷輝彦さんが前立腺癌で亡くなったニュースを見ました。先端医療のPSMA療法をオーストラリアでされていたが闘病の末、残念ながら亡くなったという報道でした。

PSMA-PETは私も3年前から導入したいと考えメーカーと話し合いもしたことがあるので解説します。

まず、前立腺癌について簡単に説明します。前立腺癌は基本的には予後が良い癌の一つです。進行も遅いことが多く、前立腺肥大で摘出された前立腺に微小な前立腺癌が含まれていることがあるくらいです。PSAという腫瘍マーカーで病期の類推をします。PSAが基準値内であれば前立腺癌は無い、もしくは有っても生命を脅かさない、なので採血のみでPSAの値だけを定期的に経過観察するPSA監視療法というのが選択されるくらいです。
しかし、稀に進行することもあり、その場合にはPSAも著増します。リンパ節、骨、肺などに転移しやすいです。
治療としては前立腺の全摘、男性ホルモン依存なので去勢、放射線治療、ホルモン療法があります。

これらの治療をしたにも関わらず、PSAが再上昇し、再発を強く疑い、既存のCT検査、MRI検査、FDG-PET検査、骨シンチなどでも再発を指摘できない場合があります。
そこでPSMA-PET検査の出番です。PSMAとは前立腺の細胞膜に特異的に結合する薬で、これを利用し、さらに放射線が出てくることで画像化したのがPSMA-PETとなります。FDG-PETが糖代謝つまり癌や炎症やその他の原因による薬の集まりを見ているのに対してPSMA-PETであれば前立腺に集まりますからそこから発生した前立腺癌の局在を容易に可視化出来るのです。さらに癌を攻撃できる放射線にしておけば、ゼロ距離射撃という他の放射線治療、抗がん剤治療よりも遥かに効率的な治療もできるのです。

繰り返しますが、PSMA-PETを使えば、前立腺癌が見つけやすく、治療も兼ねることが出来るのです。これは日本ではまだ研究段階で、オーストラリアやドイツでは受けることが出来ます。

西郷輝彦さんもこの検査及び治療を受けており、YouTubeを拝見しましたが、PSMA治療を2回受けています。そしてPSMA-PET検査ではほとんど所見が無いのになぜかPSAが上昇し、主治医から「再発が疑われるので日本へ帰って再度精査を」と説明を受けています。しかし、西郷輝彦さんは「PSMA-PETに最後まで懸ける。3回目を受ける」と希望したようです。残念ながら主治医の意見が正しいです。少し難しい話になりますが、PSMA-PETは確かに前立腺癌を可視化します。しかし、PSMAはあくまでも前立腺に特異的に結合しますから、癌が進行し未分化(分化というのは細胞が正しく成長したものと思って下さい)になれば、本来の前立腺の性質を失った前立腺癌にはPSMAが結合しにくくなります。するとPSMA-PETの画像には映らなくなるし、もちろん治療薬としても効果が無くなります。

どんなに先端治療であっても限界があり期待しすぎてはいけません。しかし、有効な検査、治療ではありますのでPSMA-PETは将来国内でも利用出来ると期待しています。

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